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翌日、受付所にて。 「はい、どうぞ。」 と渡されたのは依頼書と忍服一式。私服で受付所に来ていた俺はさっそく更衣室へと向かった。道すがら報告書に目を通す。 「えーと、本日の任務は...、やっぱりBランクかぁ。」 依頼書を立ち読みしつつ、ちょっとトホホな気分だったがこれも自分の妙な癖が原因だ。誰に愚痴を言うわけにもいかない。 「お前なにやってんだ?」 と怪訝そうに俺を見下ろす男が一人、目の前に立っていた。更衣室にいた数人の内の一人だ。同じ忍びだからと気兼ねもせず近づいてきても挨拶程度だろうとたかをくくっていたのだが。 「えーと、それで何?」 「だから何やってんのかって聞いてんだよ。なんで式なんか飛ばすんだ?それも依頼書もらってすぐに。」 ああ、確かに不審に思われるかもなあ。まるで機密事項を外に漏らすかのような行動と取られてもおかしくなかったかもしれない。今度は人目につかない所で飛ばそう。 「別に任務内容を漏らそうとしたわけじゃないよ。」 大体そんな大それたことするならこんな人目の付きやすい場所なんて選ばないって。少しは察してよ。 「お前、新顔だな。下忍なのか?」 なおも食いついてくる男に少々嫌気が差しながらも答える。 「中忍だけど。」 とりあえずはね。 「大体どうして片目を隠している?」 写輪眼を隠すためだよ。ずっと写輪眼だから隠しておかないとチャクラが駄々漏れして疲れるんだって。でもあんまり言いたくない。まだ写輪眼はうまく使いこなせていない感があるし、戦場でもない場所で無意味に親友の形見を臆面もなく晒すのには、抵抗があった。 「もういい?俺、任務あるし。」 「待て、名を名乗れ。」 「名前は聞く前に自分から名乗るって教えてもらわなかったの?」 ああ言えばこう言うで、なかなか話しに進展がないようなので、俺は勝手に話しを区切って男に背を向けた。 「おい、里を裏切るようなら容赦しないからな。」 男が暗に怒気を含ませて言った。俺は顔だけ振り返り、あらん限りの殺気で答えた。 「里が俺を裏切っても、俺は里を裏切りはしない。」 親父とオビトの意志は継ぐ。例え仲間内から罵られようと、仲間は守る。裏切りはしない。
「ちぇー、ハズレかあ。」 カカシはまた跳躍した。 サバイバル演習場を出た所でカカシは人の気配に気が付いた。確実に自分に視線を向けているようだ。 「あのさ、何か用なの?」 気配を気付かれているとは思っていなかったのか、動揺した雰囲気が伝わってくる。 「俺、任務中なんだよね。用があるんだったらその後にしてくんない?」 カカシは歩き出した。が、クナイが飛んできて足下の地面に突き刺さった。どうしても足止めをしたいらしい。 「止めてくれないかな。里内で同士討ちは御法度でしょ。」 「お前、本当に中忍なのか?赤獅子を一人で捕獲するなんて中忍でも一人じゃ無理な話だぞ。」 目の前に現れたのは更衣室でしつこく聞いてきた男だった。暇な奴だな、不審な奴と思って俺をつけてきたか。 「それにこれはなんだ?やはりお前は間諜だったのか?」 見ると男の手の中に白い蝶々が舞っていた。カカシが放った式だった。小さな結界の中に閉じこめてあるようで、これがここにあると言うことはイルカの元に伝言が行ってないと言うことだ。当たり前だが。だが、それがとてももの悲しかった。 「はぁ、俺の楽しみ壊さないでよ。」 赤獅子を抱えたままカカシは足下のクナイを睨み付けた。 「俺の名前ははたけカカシ。写輪眼を移植したのは知らないか?」 名前を言うと男は思い当たることがあるのか、顔を険しくさせた。 「白い牙の息子か。」 その名前を聞くのも久しい。親父が死んでからは皆、はれ物を触るようにしてその名を避けていたから。だからいっそせいせいした、その名前の意味する所を知らぬ忍びはいないだろう。 「そ、だから里を、仲間を裏切るようなことはしないよ。その名にかけてね。」 「待て、サクモの息子は上忍になっていると聞いているぞ。どうして今は中忍に格下げになっているんだ。」 ああ、こういうことになるからもっと考えて指示を出せと言ったのに、あの火影は。 「今は事情があって中忍になっているだけだ。またいずれは元の階級に戻る。なんだったら火影に確認してくれてもいい。この指示を出したのは火影自身だからな。」 火影の名を出すと男はうむむ、と唸りつつも納得したようだった。 「ではこの式は、」 「友達にご飯よろしくって伝言頼んだんだよ。なかなか任務してると会えないから。」 相手はアカデミーの生徒だし、と思って言うと、男はため息を吐いた。 「疑って悪かった。これは開放する。」 男は蝶々を閉じこめていた掌の結界を解いた。蝶々は今度こそ目的の人物の元へと向かうだろう。 「俺の名前は猿飛アスマ、中忍だ。俺と同じくらいの年の奴が高等な式の忍術使うのを見てたらどうにも嫉妬しちまってなあ。余計な猜疑心を持っちまった。まだまだ俺も小者だ、すまん。」 男は潔く詫びを入れ、ハハハ、と笑った。しかし俺は呆然と男を見た。 「はぁ!?」 驚きに口はぽかんと開けられ、呆けた声が漏れた。俺と同い年くらいって言わなかったかこの男。どう見ても20代前半くらいにしか見えないんだけど。それとも俺の方が老けて見えたのか?失礼なっ。 「言っておくが俺はまだ10代半ばだ。」 俺の視線の意味を知ってか、アスマは苦笑いを浮かべた。こういった視線は慣れる所なのだろう。仕方ないよ、だって、あんまりにも姿形、雰囲気、どれをとっても少年と言うよりは青年だ。タバコなんて銜えて酒でも飲んでればそこらの大人と変わらない。 「お前、老けてんな...。」 はっきり言ってやると、アスマは否定こそしなかったがむすっとした。ちょっといい気味、いままで散々疑ってた罰だ。 「ま、許してやるよ。じゃあね〜。」 俺は再び研究所へと向かった。 |